映画のストーリーはご存じの通りいたってシンプル。イギリスの厳格な小学校を舞台にマーク・レスター少年が演じる男の子がトレーシー・ハイド嬢が演じる女の子に恋をして、気持ちが互いに通じ合い、ずっと一緒にいたいから結婚しようということになる。「大人になったら..」という条件付きの約束なら騒動にはならないのだが、それが「今すぐ」という話なので、大人たちは反対し、二人の真剣さをまともには取り合わない。一方では、初めは二人を冷やかしていたクラスメートたちは、二人の真剣さに共感し、それなら大人たちには内緒で子供たちだけで結婚式を挙げさせてやろうということになる。なんとかその結婚式を中止させようと、親や教師たち大人が必死になって捜索し、結婚式の会場となった使われていない鉄道の操車場になだれ込んで大混乱となるが、二人は間一髪で結婚の誓いを済ませて逃げ切り、手こぎのトロッコを交互にこぎながら旅立って行く。
ビージーズが歌う主題曲「メロディフェアー」が日本でも大ヒットし、ぼくが通う高校では、この映画は意中の女の子を初めてデートに誘うお薦め映画のように思われていて、誘える相手がいない大多数の男たちは「あんなちゃらちゃらした映画」と知らんぷりを決め込んでいた。ぼくも実はその一人で、ロードショー期間のデートブームが終わってから、二本だての洋画専門館で一人で観たように記憶している。もう一本の映画が何だったかはとっくに忘れた。
しかし、ちょっと先入観を抱きながら観た映画は、子役の可愛さを売りにした前宣伝や専門家の「純愛」賛美の解説とは全く違っていた。
ぼくはすっかり映画に引き込まれ、主人公の二人が、クロスビー・スティル・ナッシュ&ヤングが演奏する「Teach your children」のメロディに乗ってトロッコをこぎながら去っていくラストシーンでは、目がしらが熱くなり涙があふれてきた。自分がいったい何に感動しているのか分からないまま、何でこんなシーンで泣いてしまうのか、自分が恥ずかしく腹立たしく思った。高校生の自分でも、まさか二人がそのまま放浪の旅を続けたり、どこかの街に落ち着いて新生活を始めるだろうとは思えなかったし、トロッコが辿り着く先にはパトカーが待ち構えていて、捕まって連れ戻されることは充分に予想できる。
ぼくは、映画の後もしばらくこのラストシーンを考え続け、家族や大人社会に自分を理解してもらえない悲しさ、それで諦めて大事なものを失いたくない一途さ、その二律背反を乗り越える象徴的な解決策が「トロッコで逃げる」ことなんだと理解した。自分を庇護してくれているものから「逃げる」ことは、同時に、そこから始まるすべての責任が自分に帰すことを認めるということ。そう、前を向いて(いや、たとえ後ろを向いてでも)「スタコラ逃げる」というのは積極的・主体的な決断を伴う行為で、充分にアリなんだと...
それと、エンディングの曲「Teach your children」についてもやはり一言は書いておきたい。「理解し合おうなんて思わずに、まず認め合うことが大事。そうすれば、いずれはきっと理解できるから」というメッセージは、この映像と重ね合わせると、相手を認めなかったばかりに失ってしまったものの大きさに気付かせてくれる。
1971年の高校三年生。もう誰も、誰かと「連帯」したいなんて思わず、放課後の教室で共に歌うことも、ましてや、参加者同士が旗竿構えて突きあうような政治集会なんか行こうとも思わず、一人一人がバラバラになって受験勉強に自発的に取り組むことを強いられた。ぼく自身が感じていたどうしようもない閉塞感、取り残されるという恐怖心。金色に輝く草むらの中を疾走する手こぎトロッコは、ぼくにとっては唯一の希望、残された奥の手であり続けた。
この映画は今でもテレビの映画番組やDVDで観ることができる。でも、決してもう一度観たいとは思わない。あの手こぎトロッコはもうすっかり心の奥底に刻み込まれているし、あの頃感じていた苦しさがまた蘇るのはまっぴらだ。
再登場 大阪の少年H
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オリジナルの歌詞と拙訳を紹介します。間違っていたらご指摘ください。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
Teach Your Children
written by Graham Nash
performed by Crosby, Stills, Nash & Young)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
You, who are on the road,
Must have a code that you can live by.
And so, become yourself,
Because the past is just a good bye.
人生途上の君は、
自分の拠り処となる規範を持たなくてはいけない
そうして、君は君自身になることができる
だって、過去はただ別れを告げるだけのものだから
Teach your children well,
Their father's hell did slowly go by. (*2)
And feed them on your dreams,
The one they pick is the one you'll know by.
君の子供たちに教えよう
父の苦しみはゆっくりと過ぎ去ったことを
そして君の夢を彼らの糧として与えよう
彼らが選び取ったものを、君もやがて知ることになる
Don't you ever ask them why,
if they told you, you will cry,
So just look at them and sigh
and know they love you.
何故なんて聞いちゃいけない。
聞くと君はきっと泣いてしまう
ただ彼らをみつめてため息をつけば
彼らが君を愛しているということがわかる
And you, of tender years,
Can't know the fears that your elders grew by.
And so please help them with your youth,
They seek the truth before they can die.
そして君、まだ幼い君は
年上の者たちが共にしてきた恐れを知らない
だから、君の若さで彼らを助けてやってほしい
彼らは真実を探さないと死ぬこともできない
Teach your parents well,
Their children's hell will slowly go by.
And feed them on your dreams,
The one they pick is the one you'll know by.
君の両親に教えよう
子供たちの苦しみはゆっくりと過ぎ去るだろう
そして君の夢を彼らの糧として与えよう
彼らが選び取ったものを、君もやがて知ることになる
(Refrain)
私もこの曲が大好きで、ナッシュさんに直接(96年の来日時)「この歌がすきだ」と申し上げたことがあります。ご本人はにっこりしておられました。このHPにある日本語訳は、正確でわかりやすくてとてもいい訳だと思いました。
ただ、hellの意味については異説があってこの訳と異なりますが、異説が正しいと思います。受け売りなのですが、以下を参照願います。http://blog.so-net.ne.jp/pippupgii/2007-04-16
なお、dreamとif they told youについての部分なども参照の訳とこの訳が異なりますが、それについては、この訳がより正しいと思います。
グラハム・ナッシュに会って話をされたって、ホントうらやましい!です。へたなこと言うと怒られそうな威厳があって、私ならたぶんびびってしまって何も言えないかも…。
"hell"はこの詩の重要なキーワードのひとつですが、日本にいる仏教徒(一応は)が日本語に訳すにはとっても難しい概念です。特に"his hell"とか"your hell"とか言われると、当然ながら言外には"heaven"とか"demon"とか、宗教観による違いもあるのかなぁと悩んだりして…。
時々目にする使い方は、「(彼女は)her hellから逃れるために自殺を試みた」とか、「彼女は子どもを失ってからはher hellに沈みこんでいる」とか、結構メンタルな要素を重視しているように思えますし、少し使い方は変りますが、"give him hell"とか"give her hell"とかは「痛い目にあわす」という暴力的でフィジカルな要素が主になっていたりします。 ……「ちょっと稽古つけたれ」という某親方の言葉を連想しますが、こっちは英語訳がもっと難しい。
この詩では"slowly go by"と続くし、全体の雰囲気もあって「メンタル」な要素として理解しました。
それと、親父のhellは過去形で過ぎ去り、子どものhellは未来形で過ぎ去る(両者は同時には発生していない)のも見落とせない注目点です。
以上、かなり後付講釈っぽい(訳す時はこんなこと考えてなかった)コメントでした。
お気に入りの曲の歌詞を訳すのは、とっても難しいです。英語で聞いてた時のイメージとか自分の曲への思い入れみたいなのも弊害になったりするし…。でもまあ、この詩は言葉の意味や文法と自分の抱いていたイメージとがそう矛盾せずに訳せたように思っています。